《MUMEI》 罠「私…」 断る理由が見つからない私は、隣の神君を見た。 神君は、無言だった。 相変わらず、『赤』のままで。 『姫』も、何も言わない。 (きっと、どうでもいいんだろうな) 私の事なんて。 ただ、面倒な展開に『怒って』いるのだろうと思った。 「ゆき?」 神音様が答えを待っていた。 「私、…は。ここに」 御鏡に。 「結論は、母上に報告した後でもいいでしょうか?」 『残ります』と続けようとした時、神君が口を開いた。 「ゆきの結論は、出ているようだけど?」 神音様は眉間にしわを寄せた。 「それでも、ゆきは御剣の『守護神』ですので。 …少なくとも、今は」 「そうねぇ… 今だけは、ね」 神音様は、渋々頷いた。 「でも、ゆきは置いていってくれない?」 報告だけなら神君でも大丈夫だろうと、神音様は続けた。 すると、神君が小声で私に囁いた。 「あの世話役の女に挨拶しなくていいのか?」 ―と。 (そうだ) 私はその言葉にハッとした。 正直、神楽様や他の『守護神』には、もう会わなくても、何の未練も無かった。 しかし、お世話になった紗己さんには、別れの挨拶くらいするべきだと思った。 前へ |次へ |
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