《MUMEI》

(ものって…)

そんな理由で、私を?

御鏡の資格を奪う為に、こんな事を?

「ふざ…けるな!」

ドカッ!

「う…」

怒りに任せて私が振り上げた膝は、神君のみぞおちを強打した。

…こういう時には、普段以上の力が出るらしい。

私を押さえる手の力もゆるんだので、私は、慌てて立ち上がった。

「待て!」

(待つわけないでしょ!)

私は必死だったが、着物に慣れていないせいで、動きが遅かったから、そこを神君につけこまれてしまった。

ダンッ!

「キャッ!」

走りだそうとした私の着物の裾を神君が踏んだので、私は前のめりになって転んでしまったのだ。

「痛っ…」

あちこち痛いが、痛がっている場合では無かった。

「いい加減、諦めろ」

「や…だ」

背中から、神君の重みが伝わってきて、私は泣きそうになった。

シュル…

神君が、私の帯をほどく。
「嫌、嫌…」

動き回ってはだけた胸元に、手が入ってくる。

堪えていた涙が溢れてきた。

私の耳元で、神君が囁いた。

「諦めろ。ここには、あいつは来れない。

俺の意志で無ければ、ここからは出れない。

早く終わらせたかったら、じっとしてろ」
―と。

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