《MUMEI》

「東屋は暇なのか?」

乙矢が毒づく。

「煩いな。俺なりに勉強ばっかりのお前達に癒しを与えてやろうという心遣いですけれど!」

「大方誘った奴らが彼女連れでことごとくフラれたんだろ?」

乙矢は止めを刺した。


「……いいよなぁ」

東屋が過ぎてゆく恋人達を恨めしげに見送る。

「惨めだからやめなよ。」

そんな東屋を見るのはいたたまれない。

「そりゃ、俺はアンタ達と違って私服だし!」

「拗ねるな」

俺だって浴衣は着たくなかった。

「俺達は半ば無理矢理着せられたの。……なんなら取り替えようか?」

乙矢が胸元を少し寛げた。
形の良い胸筋が……せーくしー……。
回りの女性方は見逃さんと振り向いてまで乙矢を凝視する。


「結構です……。」

すっかり自信喪失した東屋が出来上がっていた。



乙矢母は着付けのカルチャースクールに通っていて、浴衣を着せたくて仕方がなかったようだ。
今日は祭だから乙矢母には調度良いタイミングだったのだ。

着せ替え人形と化した。

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