《MUMEI》
永井伊久子A
有理としては、この日流理に学校に行かせる訳にはいかなかった。だから無理矢理、理由をつけて仕事を押し付けたのだ。

「谷口、今日放課後、顔貸しな」

「あ?嫌だね」

「絶対逃がさないから」

有理は去っていく永井の背中を見ながら呟いた。

「……逃げねぇよ」

このままじゃあ流理が楽しい学校生活送れないからな。


***


「卑怯じゃね?4対1かよ」

永井は不良らしい男子を3人連れてきていた。

「別にあたしフェアなことする気ないから」

「あっそ」

「……いつまでそんな態度とるつもり?」

「…いつまでも」

有理はニヤッと笑いながら言った。

「コイツやっちゃってよ」

「了解」

「ちょっと待てよ、アンタら。オレの顔に傷つけたら後悔するぜ?」

「はぁ?何言っちゃってんのコイツ。いいからやって」

一際背の高い男が有理の襟首をつかんで校舎の壁に押しつける。

「か…はっ」

息ができない。苦しい。

永井の嬉しそうな顔が霞んだ目に映った。

「よそ見してんなよ」

「お前の相手はオレ達だろ?」

――ドサッ

「ゲホッケホッ……」

慣れない眼鏡が吹っ飛んで、髪の毛に土がつく。

だっせぇ……オレ。

「ホラ、立てよ」

蹴られる。

「おい。お前さ、眼鏡で根暗なんだからさ、言葉遣いに気を付けた方がいいぜ」

「つーか口程にもねぇヤツだな」

有理はゆっくり立ちあがった。

「誰が眼鏡で根暗だって?」

そう言いながら振り向き、前髪をかきあげた。

「嘘でしょ……」

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