《MUMEI》

その夜。

「何、してるの?」

神那は離れの庭に降り立った、神尉を見つめていた。
「君に一目惚れしたんだ」
「嘘つき」

神那の言葉に、神尉は首を傾げた。

大抵の女は、笑顔でこう言えば、少なからず動揺する。

しかし、神那は真っ直ぐ神尉を見つめてきっぱりと否定した。

その反応が新鮮で、神尉は自然と笑みが溢れた。

「こんな場所に、こんな時間に御剣の『守護神』がいたら、怒られますよ」

「今日は、『守護神』じゃなくて、ただの男だよ。

君の名前、教えてくれる?」

「何を馬鹿な事を…」

呆れる神那に神尉は、『教えてくれなきゃ帰れない』と続けた。

「…神那よ」

神那は渋々名乗った。

「そう。俺は、神尉だよ。またね」

「もう来ないで!」

神那が怒鳴ると、神尉は笑いながら御剣へ戻った。

神尉は、自分が『守護神』だと知っているのに恐怖や尊敬もなく

まして、今までの女特有の粘りつくような目や甘い口調でもない

神那独特の真っ直ぐな、目やはっきりとした口調が、気に入った。

それに、

『つまらなそう』

あの言葉が、神尉の心を見透かしたような、言葉が気になった。
神尉は、毎日が退屈だった。

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