《MUMEI》 林太郎は歌が聞こえる主の方へと歩む。 けれどそれは朗読で、鳥が鳴いているようで、泣いているようだった。 紙飛行機を辿り木々を抜けると、家が建っていた。 家に蔦が絡まっている。 二階建ての木造建築で、古そうに見えるが西洋造りの比較的新しいものだった。 二階の窓が全開になっている。 草を掻き分け林太郎は窓の下から覗き見た。 朗読は止まない。 林太郎の存在に気付いているのかさえ定かでない。 高らかに、美しい凛とした音色だ。 縁に肘を掛けて読書している。 はためく漆黒の髪は風を切る羽の如く流麗だった。 「……だぁれ」 朗読の一部のように聲は林太郎へと向けられた。 林太郎は目を懲らして見上げる。 前へ |次へ |
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