貴方の中の小悪魔
を知る神秘の占い《MUMEI》空気。
わたしは、ものすごく怪訝な顔をして居たと思う。
それに気付いたのか、店員さんは慌ててポケットの中を探り、何かを取り出した。
「えーと…、今、お肉に値下げのシール貼るところなんです」
「…はぁ」
やっぱり分からない。
お肉を買えと云ってるのかな?
「こ、これとかどうですか?適度に霜降りで、美味しそうですよ!今、3割引にしますし」
そう云って、店員さんは専用の道具を使って、カシャっとシールを貼り付ける。
「ほら!」
目の前にお肉を差し出されたのだけど、わたしはそれをやんわりと断った。
「今日はお肉要らないんで…」
「あっ、あー…、そうなんですか」
店員さんは、静かにお肉を持つ手を引っ込める。
「あの、また、…買いに来て下さい」
「え、あぁ、はい」
勢いで返事をしてしまうものの、はっきり云って本意ではなかった。
「…じゃ、失礼します」
わたしはとりあえずこの場を離れたかったので、引きつった笑顔で頭を下げた。
お店、変えようかな。
とさえ思いながら。
「あのっ、オレ、精肉担当のイイジマです!イイジマヨシキ!」
エプロンの左胸につけられた名札をアピールするイイジマさん。
チラッと目をやると、確かに【精肉担当 飯嶋】の文字。
「しつこいかも知れないですけど、また買いにいらして下さい!」
そう云って深々とお辞儀をする飯嶋さんに、わたしはもう一度軽く頭を下げて、逃げる様にその場を離れた。
アキへのSOSは、心の中でずっと発信され続けて居た。
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