《MUMEI》

「見えない」

私は、ポツリと言った。


下を向いても 上を向いても


「何も、…見えない」


「ゆき…」


紗己さんは、それっきり黙ってしまった。


紗己さんは私が『一週間眠っていた』と言っていた。
その間、私はずっとあの日の…神君に犯された夢を見ていた。

熱い感覚があったから、もしかしたら、熱が出ていたのかもしれない。


一週間、ずっと熱が出ていたからなのだろうか


(それとも…)


『もう何も見たくない』と思ったからだろうか。


わかるのは、ただ一つ。

目の前に広がる暗闇…

私の目が、光を失い


何も見えなくなった事だけだった。


(そうだ…)

「紗己さん、まだ、いる?」

「えぇ、ここにいるわ」


私の手を優しく握りながら、紗己さんは答えた。

どうやら、すぐ近くにいてくれたらしい。


「紗己さん、…晶は? いる?」

私は、ずっと気がかりだった事を訊いた。


私が目を覚ましたのは、晶の事が心配だったからだった。


晶の姿は見えない

声も、聞こえない


いつも、私の側にいてくれたのに。

「ねぇ、紗己さん」

「…」

紗己さんは、何も答えなかった。

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