《MUMEI》

「ずっと…外に居たの?」




「…うん」





加藤は黙ったまま掛時計を見つめている。





俺はベッドに座る加藤の傍に近寄る事が出来ず、部屋の入り口から動けずに、ただつっ立っていた。






レースのカーテンから夕焼けが差し込み、加藤の顔をオレンジ色に照らしている。








膝を抱えそこに顔を乗せたまま俺を見る事もなく。






俺もそんな加藤にうまい言葉が見つからず、どうしたら良いのか分からず意味もなく拳をきつく握りしめていた。








「…ゴメン、さっきの俺……冗談だから…」






静かな中、加藤の小さな声が酷く大きく聞こえた。






俺はどうする事も出来ず加藤の横顔をバカみたいに見つめている。








――これは明らかに妄想じゃない。






だって俺の背中が酷く脈を刻んでいる。




呼吸さえも苦しくて気が遠くなりそうだ。




「冗談だから」







現実にまた加藤が言ったのか、それ共脳内で先ほどの言葉が反芻したのかさえ区別がつかない。







ふとテーブルの上の花盛りに視線を移す。





加藤が唇をつけた青い花が寂しそうに長い影をもたげ、霞みながら揺れている。







――風もないのに?






それは俺の知らない内に目尻から涙が溢れていたから。





それは音も無しに頬を伝い俺の顎を擽る。






子供過ぎる自分が歯がゆくて、好きな子一人守り、支えるすべを知らなくて。






俺に視線を移し寂しげに笑った加藤に俺は、ただ見つめ返すだけだった。

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