《MUMEI》

「駄目よ!」


「さ、紗己さん?」


(びっくりした)


私は、紗己さんは、晶に好意的だったから、『ゆきがいいならいいわよ』位言うかと思っていた。


こんな大声を上げるほど、反対されるとは、意外だった。


紗己さんは、大きく深呼吸をした。

まるで、自分自身を落ち着かせる為に。


「嫁入り前なんだから、駄目よ」


紗己さんは父親みたいな言葉を言った。


(嫁…)


私は苦笑した。


「ゆき?」


「別に…いい。 お嫁になんて、…もう…」


『行けないし』


そう続けようとした私の体を紗己さんは抱き締めた。

「…晶、いる?」


リィン


私の耳に確かに鈴の音が聞こえた。


紗己さんに抱き締められるのも、嬉しいけれど…


「こっちへ来て。晶」


鈴の音が近付く。


私は―


「抱き締めて、晶」


晶の温もりを感じたかった。


それが、一番安心するから。


「ゆき、それは…」


「いつも、してくれたでしょう?」


私は紗己さんの言葉を遮って続けた。


私が不安な時に、晶はいつも側にいた。

優しく抱き締めてくれた。

紗己さんは、ゆっくりと私から離れた。

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