《MUMEI》
暗影
「……国雄、今まで何処に居たんだ?」

昭一郎だった。
病院の廊下で鉢合わせしてしまった。
酷く久し振りだ。

「俺のことは……いいだろう。ちゃんと、働いているんだからさ。それより、昭一郎は見舞い?」

片手に花を持っている。


「―――――断られた。来るなってさ。

お前にもそう言っておけってさ。」

「何故?」

会ってはいけない。

「……分かってやれよ。」

分からない。


「…………俺達が居たら結婚する決意に差し支えるからか?」



 パァン

花束が俺の頬を横切った。
花びらが微かな芳香と共に散る。

後にも先にも花束でぶたれたのはこれきりだった。

「……治療には体に負担がかかるんだ。
お前ならこの意味分かるよな?
レイは俺達にそういう姿見せたく無いんだよ……治療費だって馬鹿にならない、結婚するって言い出したのも土地を売ってまで自分を長く生かそうとしてくれているおじさん達のことを……っ」

昭一郎の言葉はレイのように正しい。

聞きたくなくて、昭一郎の口を塞いでしまう。
…………唇で。

「……っ」

昭一郎は何も言わない。
視線を落とすと薄紅色の花びらが点々と床に落ちていて綺麗だった。


「知った風な口ぶりをするな。昭一郎にレイの何が分かる。」

「………………分かるさレイのことなら。俺はレイと付き合っていた男だ。」

俺の激情の引き金を昭一郎は容易に引ける。

――――――――弾ける。

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