《MUMEI》 秋も冬も元気よく鳴いていた蝉の声がいつの間にか聞こえなくなり 蒸し暑さも、熱気を帯びた風も感じなくなっていた。 かわりに聞こえる鈴虫の声と、涼しい風と心地よさ。 「もう、秋なのね」 紗己さんに長袖の上着を着せてもらいながら、私はポツリと言った。 私は、一応昼間は洋服に着替える。 …紗己さんが、着せてくれるから。 紗己さんの話によると、この洋服は、いつかの― 私が神君に着替えを覗かれた時に、置いてあった『私に着せようと思った洋服』らしい。 どんな色でどんなデザインなのかは、もう、…わからないけれど。 紗己さんやあの時の女の子達が選んだ物なら、変な物ではないだろうから、私は言われるままにそれを着ていた。 「もう少ししたら、冬物も買わないとね」 「あるものでいいです」 秋物は、夏に一緒に買ったようだが、さすがに冬物は買えなかったらしい。 私はもう『守護神』では無いし、贅沢はできないと思った。 「お金の心配ならしなくていいのよ? 必要な物以外は買わないし」 「でも…」 役立たずな私に、そんな事が許されるとは思えなかった。 前へ |次へ |
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