《MUMEI》

「じゃあ、私が着ない洋服をもらってくれる?
処分に困っているの」

「それなら…いいですけど」

「良かった。はい、終わり」

紗己さんは私の上着のボタンをとめて言った。

「ありがとうございます。あの…」

「今呼ぶわね」


紗己さんはすぐに入口を二回叩いた。


『入っても大丈夫』という合図だ。


リィン、リィン


すぐに、鈴の音がして、入口を開ける音がした。


「おはよう、晶」


リィン


(良かった)


今日も晶の光だけは見える。


私は毎日その光を確認しないと不安だった。

…晶がどこかに行ってしまいそうで。


鈴の音と共に、カチャカチャと、食器の音がした。

私が紗己さんに着替えをしてもらっている間に、晶が三人分の食事をもらってきて部屋に運ぶのが、日課になっていた。


私はなかなか食が進まず、主食はお粥で、おかずも少なめだった。


部屋の中で、寝てばかりいるからかもしれない。


「はい、ゆき」

「ありがとう、紗己さん」

私は紗己さんからお椀を受け取った。

「熱いから、気をつけてね」

頷きながら、手探りでお椀に入っているスプーンを掴み、お粥をすくった。

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