《MUMEI》

「庭に出てみようかな」

「…ゆき?」

それまで私は、紗己さんに誘われても、なかなか外に出ようとしなかった。

…神君に会うのが怖くて。
でも、あれ以来私と接するのは、晶と紗己さんの二人だけで、神君は来なかった。

あれから何日経ったかは、よくわからないけれど…

きっと、私の事などどうでもよくなったのだと思った。


「いい? 晶」

リィン

晶はすぐに鈴を鳴らしてくれた。

「じゃあ、食事を済ませたら、少し出てみましょうか。

履物と、上にはおる物も用意しないとね。

晶君、一緒に来て」

紗己さんの声に、晶は立ち上がった。

晶が動くと、すぐに鈴が鳴る。

私はその度に晶に質問し、紗己さんが晶の動作をその都度説明してくれた。

だから、私は鈴の音だけで、晶が何をしたか大体わかるようになっていた。


目が見えないからだろうか。

逆に、私の残りの感覚―
聴覚・嗅覚・味覚・触覚が、敏感になっている気がした。


「じゃあ、食器の片付けを済ませて、必要な物を持ってくるからここで待っててね」

「わかった」


そして、紗己さんと晶は部屋を出て行った。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫