《MUMEI》

紗己は噛むことも飲み込む事も出来なかった。

口を押さえ、バタバタと部屋を飛び出すと、どこかに向かった。

ジャー

水の流れる音がした。

それから紗己はダッシュで部屋に戻ってきた。

…息が上がっていた。

「紗己さん、大丈夫?」

「っ…大、丈夫 …ハァ…」

神にはとても大丈夫に見えなかった。

「ゆき! それ以上お粥食べちゃ駄目よ!

晶君。

もしかして…

これ作ったの、

あなた?」

リィン

神は控え目に鈴を鳴らした。

「え? 晶が作ったの?」

リィン

ゆきの質問には、更に小さな音で答えた。

「ちょっと、こっちへいらっしゃい」



「これ、ここで食べる?」
リィン リィン

神は首を大きく左右に振りながら鈴を鳴らした。

紗己の言った『これ』とは、神の作ったお粥だった。

そして、隣の部屋で神は自分の作ったお粥を一口含み―

吐き出した。

神は未だかつてこれほど

不味い

お粥を

食物を



食べた事は無かった。

「…味見した?」

「厨房の連中が何も言わなかったから」

神の言い訳に、紗己はため息をついた。

「…いい。作り直す。
これを、どうにかしてくるから」

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