《MUMEI》

「…何?」

一緒に食器を片付けながら、紗己は神を睨んだ。

神が紗己を見つめるなど、普段はないことだった。

「…頼みがある」

「何ですか?」

神は真剣な表情で…

「俺に料理を教えてくれ」
と、頭を下げた。

「料理を?」

唖然とする紗己に、神は頷いた。

「遠慮なく鍛えてくれ」

「鍛えてって…」

剣道か何かの稽古じゃあるまいしと、紗己は呆れたが
結局、神の熱意に負けた。

「なぁ、紗己」

「何?」

厨房にいた男が、手招きをした。

「お前、当主にいつもあんな口利いてるのか?」

「もう当主じゃないもの。
あれは、晶君の変わりなの。
だから、あなたも、晶君と同じように接してね。

他の皆にも、そう伝えて」
「晶君の、ねぇ…」

最初は厨房や離れの誰もが違和感を覚えた。

しかし、神を遠慮なく指導する紗己を見ているうちに、徐々に、神に対する態度は晶に対する態度に近くなっていった。

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