《MUMEI》

誰かの胸で泣きたかった。思いっきり泣きたかった。そして優しく抱き締めて…黙ってきつく…。ただそれだけだったのに。 夏の暑い日差しが照り返す8月の午後。ティータイムにはふさわしくない海辺の屋台に夏子は居た。一人たそがれでも無く夏子は波に浚われそうなくらい脆かった。 「あの…ここよろしいですか?」 ふいに、ちょっと遠慮がちなそれでいてはっきり通る声が夏子の耳に飛込んできた。顔をあげた夏子の目に少し困った顔の青年が写った。 「あの…ここ座って良いですか?」 青年がもぅ一度聞いた。

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