《MUMEI》

「話、終わったよ。
…あれ? え〜と、紗己さんは?」

「慌ててどこかに行った」

汐里の言葉に、神は立ち上がった。


「大変ね。 『死んだ恋人』の代わりも」


「…」


『守護神』の事は一般人である汐里には話せなかった。

だから、神は

ゆきと自分はいとこ同士で、今は一緒に生活している
ゆきは高熱が続いたせいで失明している

ゆきは亡くなった恋人―晶の死を受け入れられず、神を晶だと思い込んでいる


と、汐里に手紙で説明した。


そして、ゆきを慰める為に、ゆきの誕生日を一緒に祝ってほしいと、汐里に頼みこんだのだ。

あの『御剣様』から手紙をもらった上に、頭まで下げられるとは思わなかった汐里は混乱したが

突然いなくなったゆきに会いたい気持ちもあり、すぐに承諾したのだった。


「さっきゆきと話したけど…

あの感じなら、大丈夫ね。
あの子は強いから。

…そのうち、代わりも必要無くなるかもよ」


汐里の言葉に悪意は無かったが、神の胸に最後の言葉が引っかかった。


『代わりも必要無くなる』

それは、ゆきが自分を必要としなくなると言う事だ。
今更、正体を明かす勇気は神には無かった。

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