《MUMEI》 6呉服屋を出た瞬間、自転車が目の前を横切る。 っ! がつん!! あたしはびっくりしてよけた拍子に呉服屋の壁に勢いよくぶつかった。 自転車が少し行った先で止まる。 そして地道にバックしてきた。 その人は心くんだった。 「み、三紀崎?! 大丈夫っ?」 あたしがぼーっとしてたから悪いんだけど結構痛かった。 でもなんでか嬉しかった。 「うん、まあ」 「ごめん」 「いいよいいよ。あたしもぼーっとしてた」 あたしはいつの間にか座り込んでて、心くんはためらいがちに中腰っぽくなってた。 行っちゃうべきか まだあたしといるべきかどうすればいい ってかんじで所在なさげな心くん。 「あ。なんかお煎餅買ってきて?」 変な沈黙が嫌で口を開いたら可愛げの欠片もない言葉が出てきて、あたしは少し後悔した。 あたしひねてるなあ。 素直じゃないし。 「やだよ。てか渋っ!」でも心くんは笑ってくれた。 内心ほぼ初対面なのに馴れ馴れしいなとか思ったかもしれない。 少し昔のあたしなら、冷静にものが言えたのかもしれない。 でも無理だった。 この時はなんとなく、つっぱることしか出来ずに終わったんだ。 「でもお煎餅…どこに売ってるのかわからないし…」 「そっか… じゃあ案内したるよ 立てる?」 「たぶん大丈夫」 よろけたけど大丈夫。 立ってしまえば問題なさそう。 「…しゃーないなー」 心くんは手をかしてくれた。 「…ありがと」 「じゃ、いこっか」 心くんは自転車に乗って行ってしまう。 はいっ?! 追いつけません!! でも、初めて会ったような女の子と並んでいくの抵抗があるのかもしれない。 そうだよな… 案内してくれるのもきっと倒した罪悪感からだろうな… 少し仲良くなれたとか思った自分、ちょっと軽く考えすぎ。 ばか… 「早ーい!!降りてっ!」 そう考えたらもっと素直になれなくなった。 「あたし乗るから心くん走って!」 素直に感謝の気持ちを表せない うまい一言も口にできないあたしだった。 ごめん。 嬉しかったです。 なんか、うまく感謝出来ない高飛車な女でごめん。 素直じゃない。 ほんとに… 可愛くない… 前へ |次へ |
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