《MUMEI》 変わる春汐里が帰ったその日から、私は点字の勉強と同時に、着替えを自分でしたいと紗己さんに申し出た。 最初は紗己さんは、反対したが、私はどうしてもやりたいと、説得した。 始めは紗己さんに指示を出してもらいながら、着替えをした。 かなり時間がかかったし、仕上がりがいまいちだったらしく、紗己さんに直される日々が続いた。 それでも私は諦めなかった。 正直、イライラしてしまう事はあったけれど、この位は出来ないといけないと思った。 毎日紗己さんが決まった場所に着替えを置く。 私はそれを手にとり、着替える。 これが出来る頃には、二月が終わっていた。 三月に入ると、私は一人で共同の洗面所に行こうと思うようになった。 一人で移動するのに紗己さんも晶も反対されていたから、ある日私は思い切って、こっそり部屋を出て、廊下に出てみた。 (右側は突き当たりだから、左よね?) 御剣家の屋敷は割と直線が多い。 だから、私は壁やふすまづたいに、ゆっくりまっすぐ歩いて行った。 部屋から何歩歩いたか、数えながら。 丁度、十歩歩いた時。 前方から、足音が聞こえた。 「おはようございます」 「お、おはようございます」 前へ |次へ |
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