《MUMEI》

戸惑いながら挨拶する声は、聞き覚えがあった。

(確か…)

「美幸(みゆき)さん?」

『名前が一文字違いですね!』

そう言っていた、私の誕生日の時にいた女の子のうちの一人だ。

「はい! 覚えててもらえて嬉しいです!

こんな朝早くにお一人で、どうされました?」

「洗面所の位置を覚えたくて…案内してもらえる?」
「喜んで!」

それから美幸さんに手を引かれて私は洗面所まで来た。

それから、美幸さんに蛇口の数や外観の説明をしてもらった。

「せっかくだから、顔洗います?」

「うん」

私が顔を洗い始めると…

足音と、鈴の音がして

「見つけた!ゆき!」


「…おはよう」

私は顔を拭きながら、紗己さんと晶に挨拶した。

「あ、おはようございます」

「『おはようございます』じゃないわよ! あなた…」

「美幸さんを怒らないで、紗己さん。

廊下で偶然会ったの。

私が連れてって頼んだの」

私は慌てて説明した。


「どうして…」

「だって、この位は、自分でやりたくて」

リィン リィン

晶が私を後ろから抱き締めた。

「晶?」

リィン リィン

晶が、微かに震えていた。

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