《MUMEI》
8
「で、俺が子犬拾って、川子さんに見つかって、川子さんそれ頂戴、ってわんこ持ってっちゃって。でもわんこ、その日の夜うちに逃げ帰って来た」

爆笑。

川子さんならやりかねん!
しかし、犬に逃げられて…犬の本能だな

「俺その日泣いたもん。親一生懸命説得してやっと飼えるようになったわんこをあっけなく奪われてさ…
でも帰ってきてよかった。川子さんわんこに何やったんだろうな…
未だにわんこは川子さんを怖がってます。」

心くんも笑ってる。

帰り道、川子さんの話で盛り上がっている。
あたしはTシャツの話も夕飯の話もした。

川子さんはあり得ないことばかりだけどここまでとは…


ちなみに。
心いわく川子さんとの関係は
「悪魔と下僕だよ、あんなの…」
らしい。

「いやー!川子さん怖いから誰にも言えなかったけど…同じ下僕仲間がいて助かったよ〜」
とあたし。
「下僕仲間!やだよ、なりたくねー」
「あんた隊長っ」
「ふざけんなっ」
「下僕歴長いじゃん」
「隊長の座は譲るし!」

「わんこ、なんて名前?」
「天ぷらのてん」
「大好物」
「食うなよ」
「食えん」
「もうおじいちゃんだから不味いと思う」
「だから食べないから」

川子さんの店に着く。

目の前に心くん。
素直に…

「ありがとうございました。」

「どういたしまして」
心くんは夕焼けに反射するみたいに赤い光を浴びていた。


「また明日」


「おう、学校で」





夕日が自転車に乗る心くんの陰を伸ばしていた。

京都の町並みは静かに時を刻んでいく。

あたしは、見えない力を感じていた。


風が、吹いた。

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