《MUMEI》
嫌な女
(ちゃんと出来たかしら?)
久しぶりに戻った自室で、紗己は神に言った言葉の数々を思い出していた。

(多分、大丈夫)

放心状態だった神の最後の姿から、疑われてはいないだろうと紗己は思った。

突き刺すような視線

冷たい口調と酷い言葉。

あれだけ

『演技』

すれば

きっと、大丈夫。

紗己がまだ神を許していないと『思い込み』

ゆきに対して不安を募らせるだろう。

そうすれば、どれだけ想っていても、手は出せない。
無理矢理手を出せば、今度こそ取り返しがつかなくなること位、いくら神でもわかるだろう。

(多分あの様子だと)

かなり我慢はしている。

…男だから、自慰くらいしているだろう。


この状態で、ゆきと神を二人きりにするのは、紗己は不安だった。

(まだ、早い)


ゆきは、立ち直ろうとしている。

それも、以前より強く。


汐里が帰ってから、ゆきは変わった。

甘えるだけでなく、頑張ろうとする意欲が出てきた。
紗己は、寂しくはあるが、そんなゆきを応援するつもりだった。


(もしも、ゆきが立ち直ったら…)


紗己は、神とゆきの未来も明るいのではないかと思った。

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