《MUMEI》

「神楽様…ですね?」

『当主』は深々と頷いた。

「あの方は未だに、私の事を当主とは思っていない」

「反対してるのは、あの人だけなんだけどね。

一応、前当主だし…」


「それで俺が呼ばれた…のですね?」

神の言葉に、二人は頷いた。


「成功したら、御剣の別荘を一つやろう」


それはつまり、御剣から出てゆきと二人で生活してもいいと言うことだった。


「有難い申し出ではありますが、主はそのような事は望んでおりません」


神は丁重に断った。


「何故だ? このままあの狭い部屋で、皆に疎まれて生涯を終えるつもりなのか?」

「まさか!」

『皆に疎まれて』

「ゆきほど、離れの者に好かれている者はおりません」


目が見えなくても、必死に頑張るゆきに、周囲は優しかった。

―時に、嫉妬するほどに。

紗己が言った言葉は予想以上に神を傷付けた。

神は不安から、普段普通に触れる事すら臆病になってしまっていた。

毎晩の自慰行為も、ピタリと止まっていた。


ゆきの態度も笑顔も変わらないのに、ゆきが自分に

神に

対する想いを考えると、側にいる事すら、いけない事に思えてきた。

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