《MUMEI》

しかし、ゆきと離れたくない想いはある。

一緒にいたい。

いては駄目だ。

触れたい。

触れてはいけない。

自分を見てほしい。

自分に気付かないでほしい。

矛盾する想い。


「『晶』? …『晶』!」


「あ? はい!」


考え過ぎて神は晶であることを忘れていた。


「なら、かわりに何を望む?」


「いえ。何も。…これから神楽様の所へ行ってきます」


神は寝所を後にした。


『何を』


神が望むのはたった一つ。

『ゆきの幸せ』だけだった。


神はゆっくりと、神楽の部屋に向かった。

神と神楽は実の親子だが、親子らしいやりとりは全くしたことが無かった。

神は生まれてすぐに寝所に移り、側にはいつも『姫』がいた。

具合が悪い時は医者と使用人が近くにいた。

何故、神楽がそんなに神と関わらないのか、神にはわからなかった。


しかし、今ならわかる。


鳴神の記憶を

過去を見た神なら。


神楽が愛していたのはきっと


実の兄―


「神尉だけを、愛していたのでしょう?

今更俺のかわりに誰が当主になろうが、跡継ぎを産もうが、どうでもいいんじゃないですか?」

「神…」

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