《MUMEI》

神楽の部屋に入った神は、周囲に人がいないのを確認して、切り出した。

神楽は、目を見開いて神を見つめていた。

その姿は、憔悴しきっており、以前のような威厳は感じられ無かった。


「それとも、俺が、神尉を奪った神那にそっくりなゆきに奪われたとでも思いましたか?」

「そうよ…」


神那の名前を聞いた神楽の表情が険しくなった。

それは、前当主でも、母でも『守護神』でもない―

ただの嫉妬に狂った一人の女の顔だった。


「あの顔! いやらしい身体!
私のお兄様を誘惑した女そっくり!

お兄様を奪っておいて、その上、息子まで奪うなんて!」


「神那もゆきも何も奪ってなんかいませんよ」


むしろ奪ったのは、神尉であり、自分だと神は思った。

神尉は当主の証を

神は御鏡と御剣の力と光を
それぞれ奪ったのだから。

「奪ったわよ!
お兄様の、あなたの心を!」

「それは正しいですが、彼女達のせいではありません」


勝手に好きになっただけだ。


逆恨みもいいところだろうと、神は思った。


「とにかく、翔子と当主の子供を認めてあげて下さい。

あの二人はちゃんと愛し合っています」

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