《MUMEI》

「それは…」

神は返事に困った。

慌てて自分の中の晶の記憶を辿ってみる。

ゆきの中で晶は

『自分を守ってくれる大切な存在』

だ。


しかし…


ゆきは


晶と体を繋げるのを





拒んだ。


ゆきの中で晶は…


『恋愛対象』では




「…ない? 違います」


「まさか、今更気付いた…の?」


その時神楽の目の前にいたのは、冷静沈着な、当主でも、無関心な息子でもなく―

ただの『恋愛初心者の鈍い男』だった


「…大体、口が利けない設定も、限界があるでしょう。

いざと言うとき、あなたは無言であの娘の相手をできるの?」


『いざというとき』?


神が首を傾げたので、神楽は露骨な表現をした。


「無言で抱けたとしても、イク時に、何も言わない自信はあるの?

小声でうなったり、息が荒くなったりするでしょう?
あの娘は目が見えない分耳がいいと聞いてるけど?」

息子相手に何を言っているのかと内心思いつつ、神楽は素朴な疑問を投げ掛けた。


神は一言。


「無理です」


と、少し赤くなりながら答えた。


「何だか今初めて、あなたも人間なんだなと思ったわ」

神楽はしみじみ言った。

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