《MUMEI》

「……七生?」

突っ伏したまま動かなくなった。頭を叩いて確認する。

「彼女って、いつ付き合ってたの?」

「え ……と、七生が腕を故障して野球辞めてからだから中二あたりかな。」

七生は無言で面を上げた。



「……き 」

 き?

「気付けよ俺ぇ〜……!」

そう叫んでから七生がきつく抱きしめた。

「……ななお?」

思いの外ライトな反応で驚いた。

「誰?女子?名前は?」

質問攻めだ。

「彼女って言ったじゃん。四組の人だよ。」

「だから、誰?」

二度目だ。

「誰でもいいじゃないか。」

「誰でも良くない。二郎のこと、もっと教えてよ。
悔しいんだ。
俺が彼女と浮かれて遊んでる間、二郎が大人になっていたのが。
もしも時間が戻せたら、もっと早く俺達はこうして互いのこと考えれたのに。」

「でも、戻せないよ。」

七生が俺を想ってくれているのは確かだ。
暴れるのも優しいのも、ちょっとロマンチストなのも全部引っくるめて好き。

「……誰?言いたくない?」

「知ってもどうにもならないよ。きっと、七生は彼女に夢中で周りのこと無関心だったから分からないでしょ。
俺も七生みたいだったら俺も誰かを傷付けたりしないで済んだのかな?」

感傷に浸る。

「傷付いてんのは二郎じゃん……俺も知らないうちに付けてた?

時間が戻せたら……」

「もう、いいよ……俺が悪いんだから。」

七生は悪くない。

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