《MUMEI》












はりつめた沈黙。











背後からも隆志君の声は、無い。







加藤は俺の存在を認めていない?




どうして




…俺を見ない…?





すると固まったままの感情のない表情が僅かに変わりだした。






薄い唇が何かを話す様音も無く動き、張り詰めた瞳が頼りなく揺らいだ。






ドスン!!







躰に見合わない大きのボストンバッグが加藤の手からアスファルトに落ちる。









同時に加藤は俺の脇を、風をきり……




一瞬で、






すり抜けた。





相変わらずの沈黙の中、俺は深呼吸をし、ゆっくりと振り返った。


…−−−−




そこには……



大きな隆志君の胸にしがみつく、小さな……加藤。





隆志君は黙ったまま、じっと加藤を見下ろしている。





「ダメ?俺じゃ…ダメ?」




俺の耳にぎりぎり届いた、小さな小さな加藤の声。





小さな背中が震え、隆志君のシャツを握りしめている。




「…ダメ?」









加藤は隆志君のシャツを握りしめたまま、ゆっくりと胸から離れた。




頭を垂れた細い項が街灯で白く浮き上がる。



「…加藤は…俺で良いのか?」





やっと…漸く隆志君から出た台詞。






――俺は隆志君を見る。





隆志君もまた加藤しか存在を認めていないかの様に、真剣に見下ろしている。





「遊びでも良い、遊びでも…、俺で…遊んで?」




これって…押し倒されただけでパニックになった人間から出る台詞なのか。




いや、遊びって!


「か…!」




俺が加藤を呼ぼうとした瞬間、隆志君は加藤を胸の中にすっぽりと抱き入れた。







「加藤、ごめん、辛い想いさせて…、もう大丈夫だから、ずっと…、ずっと傍にいてやるから、俺、加藤の事…確りつかんで守るから」

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