《MUMEI》
別の声
突然飛び出してきたレッカにマボロシは即座に反応した。
レッカが鉄塔の階段を駆け上がるのに合わせるように、高度を上げていく。
羽田と凜はその動きを目で追った。
レッカは信じられないほどのスピードで一番上まで登り切ると、一瞬、こちらへ視線を向けた。
それに応えるように羽田と凜はその場にしゃがみ、耳を塞ぐ。

少しの間を置いて、爆音と共に空気が震えた。
羽田が上を見上げると、真っ赤な煙がモクモクと立ち昇っていた。
あれが、何か決められた合図なのだろう。
レッカは攻撃してくるマボロシをなんなくかわしながら、登ったときと同じく、一気に下りてきた。

「ふう。これで、誰か気付いてくれるとおもうぜ」

そう言っている間に、爆発に興奮したのかマボロシが三人目掛けて再び攻撃を仕掛けてきた。
三人の頭上の鉄がジュワっと溶ける。

「やっぱ、鉄も無理か」

「また、走るの……?」

羽田は悲鳴をあげつつ、走り出した。
しかし一度休んでしまったからか、足に力が入らない。
それでもなんとか走ろうと片足を上げると、もう片方の足にひっかかって転倒してしまった。
その真上でマボロシは停止し、チャンスとばかりに体から白い物体を切り離す。
羽田は覚悟を決めて目を閉じた。

『先生!!』

レッカと凜が同時に叫んだ、その瞬間、何か別の声が羽田の頭上で響いた。

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