《MUMEI》

「お背中流しますね」

「え、…いいわよ」

「まぁまぁ、いいじゃないですか」

「…じゃあ…お願い」


私は美幸さんの声のする方に、背中を向けた。


「はいはい」


美幸さんは、鼻歌まじりに私の背中を洗い始めた。


「ねぇ、美幸さん」

「はい?」


私は思い切って、訊いてみた。


「最近、晶、変じゃない?」


すると美幸さんは、とんでもない事を言った。


「溜ってるんじゃないですか?」


シャワーで私の背中を流しながらの台詞だったから、聞き間違いかと思ったが、

「だから、欲求不満なんですよ」


更に言った一言で、私は顔が熱くなった。


(欲求不満て…)


「晶は、人間じゃないのよ」

私は慌てて否定した。

晶は、剣の分身なのだ。


「でも、今は生身に近いじゃないですか」

美幸さんは私の手を取って、湯船へと誘導した。


「だって…何も無いわよ、この一年」

私は湯船に入りながら説明した。

「はぁ?!」

続いて入ってきた美幸さんは大声を上げた。

声が、広い浴室にこだました。


美幸さんは他の使用人達が入ってから私を呼びに来たので、浴室内にいるのは私と美幸さんだけだった。

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