《MUMEI》
隆志視点
「何処に行くつもりだったの?」
持ち上げたバッグはかなりの重量。
しかも衣類だけじゃないのが分かる。
「…名古屋…実家…」
加藤はうつ向いたまま俺のシャツを握りしめている。
加藤の涙で胸元がひんやりする。
まだまだTシャツ一枚じゃ夜は肌寒い。
「車乗って」
「…え?」
「…いいから」
フラつく加藤を助手席に促し俺はドアを閉める。
大きな荷物と花束は後部席に置いた。
そして俺は車を発車させた。
▽
ラジオの音がうるさく感じて俺はボリュームを全て消した。
加藤は黙ったまま、俺のシャツの袖を握ったまま離そうとしない。
「…袖伸びるよ」
すると 加藤はゆっくりと袖から離れた。
しかし俺はすかさずその手を握りしめた。
「…どうせなら手の方が嬉しいよ」
――抱いた時必死にしがみついていたこの小さな手…、そしてまたこの手が俺の中に収まっている。
ふわりと腕に重みと温もりが追加された。
俺に寄りかかる加藤…、もう…
「今日は帰さない、
…いや、帰せない…」
するとまた静かに泣き声が漏れだす。
「イヤ?」
頭を左右に揺らす感覚が俺の腕に伝わる。
もう愛し過ぎて胸がはり裂けそうだ。
――いつも気が強くて、にくまれ口ばかり叩く年下の…男の子。
俺はいてもたってもいられなくなり車を端に寄せギアをパーキングにし、間を入れず加藤を引き寄せきつく抱きしめた。
息を詰める短い呼吸音が腕の中で響く。
細い躰からダイレクトにボディシャンプーの匂いがする。
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