《MUMEI》
隆志視点
「何処に行くつもりだったの?」




持ち上げたバッグはかなりの重量。





しかも衣類だけじゃないのが分かる。




「…名古屋…実家…」
加藤はうつ向いたまま俺のシャツを握りしめている。




加藤の涙で胸元がひんやりする。




まだまだTシャツ一枚じゃ夜は肌寒い。



「車乗って」




「…え?」




「…いいから」




フラつく加藤を助手席に促し俺はドアを閉める。




大きな荷物と花束は後部席に置いた。





そして俺は車を発車させた。











ラジオの音がうるさく感じて俺はボリュームを全て消した。




加藤は黙ったまま、俺のシャツの袖を握ったまま離そうとしない。




「…袖伸びるよ」





すると 加藤はゆっくりと袖から離れた。




しかし俺はすかさずその手を握りしめた。




「…どうせなら手の方が嬉しいよ」





――抱いた時必死にしがみついていたこの小さな手…、そしてまたこの手が俺の中に収まっている。





ふわりと腕に重みと温もりが追加された。





俺に寄りかかる加藤…、もう…






「今日は帰さない、
…いや、帰せない…」






するとまた静かに泣き声が漏れだす。





「イヤ?」




頭を左右に揺らす感覚が俺の腕に伝わる。




もう愛し過ぎて胸がはり裂けそうだ。





――いつも気が強くて、にくまれ口ばかり叩く年下の…男の子。






俺はいてもたってもいられなくなり車を端に寄せギアをパーキングにし、間を入れず加藤を引き寄せきつく抱きしめた。




息を詰める短い呼吸音が腕の中で響く。





細い躰からダイレクトにボディシャンプーの匂いがする。

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