《MUMEI》
静止
羽田は目を閉じたまま、すぐに襲うであろう激痛に備えた。
しかし、何秒過ぎてもそれはおとずれない。
不思議に思って目を開けると、まさに羽田に直撃する寸前であの白い物体は静止していた。
その上ではマボロシが同じように動きを止めている。
ふと肩を見ると、そこには小さなテラが威嚇するように毛を逆立たせて白い物体とマボロシを睨みつけていた。

「さっきの声……テラ?」

状況を理解できない羽田は呟く。

「せ、先生。 なにしてんだ! 早く走れ!!」

レッカの声にハッと我に返った羽田は急いで立ち上がり、走り出す。
しかし、やはりうまく走れない。

「わたしはいいから、二人は先に逃げて」

自分のせいで二人を危険な目に合わせるわけにはいかない。
羽田は走ることをやめた。
そして、マボロシを振り返る。
動きを止めていたマボロシは、目が覚めたように一瞬、震えるようにふわっと揺れると、再びこちらへ向かってきた。
羽田は覚悟を決めて震える拳をにぎりしめた。
しかし、その次の瞬間、羽田の頭上で何かが弾けた。
そして光の弾がいくつもマボロシへとぶつかっていく。
弾がぶつかった直後、マボロシは一瞬のうちに散って消えてしまった。

「怪我は?」

背後で知らない男の声がした。

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