《MUMEI》

「今のは現実では無いけれど、あってもおかしくない事ですよ」

美幸さんは私の頬に触れた。

いつの間にか、私は泣いていた。


「嫌、嫌…」

「どうして嫌なんです? ちゃんと晶君は、ゆき様の言いつけを守って、側にいるから問題無いじゃないですか?」


「それでも、嫌…」

「どうして?」


美幸さんに追求されて、私は少しずつ自覚しながら、本音を言い始めた。


「晶が、私以外の女の人に触るなんて…

そういう事するなんて…嫌」


「でも、晶君も男だから、仕方ないですよ。

触ってほしくないんでしょう?

ゆき様は」


「違うの。触ってほしくないわけじゃないの。

…変なの」


「変?」


「前は晶に触れてもらえると、安心するだけだったの。

でも、今は、落ち着かないの。

ドキドキするの。

…でも、嫌じゃないの。

ただ…」

「ただ?」

「怖いの。…何かが変わりそうで」

それが何かわからないけれど、私は今までの晶との関係が崩れてしまいそうな気がした。

「それに…
晶が、我慢しているなら、こたえてあげたいけど…

そういうのも、まだ怖いの。

晶の事が好きなのに、怖いの」


『晶の事が好き』

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