《MUMEI》

◇◆◇

「霧が出てきましたね‥」

 桜の宮が言ったその途端、ごう、と風が唸り、花を散らす。

 はらはらと花びらが落ち、地を桜色に染めた。

「儚き事‥」

 ふと神楽が呟いたのを、桜の宮は聞き逃さなかった。

 もしや自身と重ね合わせているのでは、と思いつつ、桜の宮は又も心苦しさに懐を押える。

「‥‥桜の宮‥?」

「いえ、只‥少し考え事をしていたもので」

 神楽に悟られまいと、桜の宮は努めた。

◇◆◇

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