《MUMEI》
一雨降られる
「……っこ 」

小雨だ。
引き剥がされると七生は仏頂面だった。

「こういうときは、俺をもっと見なきゃ。
まさか……二郎嫌がってるのか?」

七生の顔が曇る。

「い、嫌がっては無いよ……慣れてないだけだから。
なんかこーゆーことになると感覚がビンカンになるみたいで。……拒んだつもりじゃないけど?」

相変わらず、七生のキスには弱いみたいだ。

瞬きを何度か繰り返す間に七生の顔が仏頂面から満面の笑みに変わる。
両手を掴まれ引き起こされた。

「それならいい。」

七生の力強い握力が、温かさが、不思議と今までの不安を掻き消してゆく。

俺の座っていた階段より数段下に移動する。

「雨降ってきたし帰ろうか」

自然とおぶる体勢で構えている七生は凄い……流石、年上好き。

「歩けるから大丈夫……痛ッ、」

七生に怪我した足を掴まれた。

「嘘つき。」

後ろ姿だが悪い笑い方が微かに見えた。

「誰かに見られたくないからいい。」

弁明が面倒なのが本音。

「裏の方回ればいいよ、誰もそんな見てないから。
人目が怖いなら……俺だけ見てりゃいい。」

先走って七生の腕は俺の脚を掴んでいた。
おぶる気満々だ。

「置いていけばいいじゃん。祭の後片付けあるだろ?」

七生の背中にでかでかとある法被の[祭]の一画目を指でなぞる。

「怪我人置いていけるかってのもあるけど、心配だから。
こんな、無防備なエロいの置いてけぼりに出来るか。」

「誰がエロか!」

すぐそうやってからかう。

「そんな乱した格好で歩いてたら狙われるに決まっとろうが!」

「それは七生だ!」

この、セクハラ魔人!……は、言い過ぎだから飲み込んでおく。

「高遠のことも偶然て言えるか?!」

「高遠は違う!」


しまった。

「高遠……は?」

七生の眼光が鋭くなった。

「そういえば二郎、学校祭のとき変な痕ついてね……?」

要らぬ疑いを持ち始めた。

「それは七生が……!!」

危ない、七生のせいにしてしまうとこだった。鬼怒川のことはお互い様だ。

「なんで黙るの?まさか、う、浮気?」

七生の背中に乗る。

「いいから進め!」

尻を蹴ってやる。

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