《MUMEI》

◇◆◇

「───もし」

「‥?」

 突然に声をかけられ、びくりと肩を上げた胡蝶は、声のした方へ徐に振り向いた。

 旅人のような身形をした、若い女がいた。

「どうされましたか‥?」

 胡蝶が尋ねると、その女は言った。

「貴女は──蝶を見ませんでしたか」

「蝶‥?」

 その言葉に、はっとする。

 胡蝶は確かに、白い蝶の姿を見ていた。

「少し前に‥向こうへ飛んで行ったのを見ました。‥それが、どうかなさったのですか?」

「‥いえ、‥教えて下さってありがとうございました」

 女は軽く頭を垂れ、そのまま向こうへ歩いて行ってしまった。

◇◆◇

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