《MUMEI》

こんなときに限って親が外出、麻美はまだ遊んでいて帰って来ない。

柊荘にお世話になるとは……。



「寒くない此処?」

相変わらず窓開け放したままで不用心だ。
七生からタオルを受け取る。

「シャワー浴びなよ。」

「……え。」

「あのな、変な意味じゃなくて、雨に当てられて風邪ひかせたくないだけだからな?」

七生は真剣な眼差しを受ける。

「……わかってるから。昨日今日で簡単に体許すような人間に見えるか?」

眼差し返しする。

ハンガーを受け取り、お言葉に甘えることにした。


蒸気の中でも寒気と心音が鳴り止まない。
つい、七生を意識してしまう。

抱いて欲しい訳じゃないけど、やっぱりお年頃が二人だから。

鏡で体を確かめる。
鎖骨に歯形。
七生に噛まれてうっ血してしまった。

指で触れてみた。

「……ふ 」

ちょっと痛い。

七生に付けられた傷だ。
七生が触れて出来た痕。

水滴が肌を弾く度、雨水を思い出させる。
七生の温かい背中を思い出させる。


「じろー、着替え置いとくからな。」

驚いた。
七生のこと考えているときにやってきた。
俺の頭の中見ているんじゃなかろうか。

「うん、ありがと」

いけない……隙を見せてしまいそうだ。

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