《MUMEI》

「そうなんですか」

私の言葉に、神音様は頷いた。


「今までここに来れなかったということは、…一時的にゆきの御鏡の力が無かったのは事実のようだけど…
私が聞いた話と真実はどうやら違うようね」


神音様は神君を見つめた。

「『体調不良で当主の座を退いた』ようには見えないし」


神音様の言葉に、神君は固まった。


「本当は、すぐにでもゆきを連れて御鏡に戻りたいけれど…

美幸さん、だったかしら?」


「は、はい!」


急に指名されて、美幸さんは慌てて返事をした。


「私が来たことを、今の当主に伝えて下さる?」


「わかりました!」


美幸さんは素早く行動を開始した。


「あの…神音様」

「何? ゆき」


神音様は、私と話す時だけは、とても優しい口調だった。


「…私も、今の当主に挨拶したいのですが」

「そうね。 でも、まずは着替えた方がいいわね」


(あ…)


神音様に言われて私は、まだ寝間着のままだった事を思い出した。


「す、すみません。こんな格好で…」

「いいのよ。 私が突然来たんだもの。

…着替え、手伝いましょうか?」

「とんでもない!一人でできます!」

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