《MUMEI》

私は慌てて断った。

いくら私に宝玉が移ったといっても、現時点では神音様が御鏡の当主だ。

それに、神音様は母の妹でもある。

そんな人に着替えを手伝ってもらう気には、とてもなれなかった。


「それじゃ、私達は外にいるから、後で呼んでね」

「はい」


そして、部屋には私だけが残った。





「それでは、私はこれで失礼します」


廊下に出るとすぐに、医師はそう言って神音と神に頭を下げ、その場を後にした。


「ゆきは、『挨拶』と言ったわね」

「…そうですね」


勝ち誇るような口調の神音の言葉に、神は消えそうな弱々しい口調で答えた。


『挨拶』


とは


『別れの挨拶』の事だと、神は思った。


「随分遠回りしたけれど、やっとゆきは御鏡に来てくれるのね」

「…そうなるでしょうね」

二人の口調は、はっきりと明暗に別れていた。


神音は、大好きな姉の娘が自分の後継者として、御鏡に来てくれるのが、嬉しくて仕方無かった。


神は、今度こそゆきが、自分の手の届かない場所へ行ってしまうのが、悲しくて辛くて仕方無かった。


ゆきを愛している神には、もう、ゆきを無理矢理止める事はできなかった。

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