《MUMEI》

私は一応当主に会うということで、普段着ではなく、よそ行きの洋服を選んで着替えた。

本当は、正装が一番ふさわしいのだろうが、私は正装を一人で着ることができなかった。


「終わりました」


私がふすまを開けると、そこには神音様と神君がいた。

医師は帰っていったと神音様が教えてくれた。


神音様は、体力が少し回復したようで、顔色も良かったが…


何故か、今度は神君の顔色が悪かった。


(何かあったのかな?)


私が神君に話しかけようとした時。


「お待たせしました。
当主が今からお会いになるそうです。

案内いたします」


美幸さんが戻ってきた。


「ゆき、行きましょう」


「はい」


私は、神音様の後に続こうとして


足を止めた。


「ゆき?」


「すみません、神音様」


私は、何故か立ち止まっている神君に近付いた。


「神君? どうしたの?
行くわよ?」


「俺もか?」


神君は、不思議そうな顔をしていた。


(変な神君)


「当たり前でしょ」


「最後の挨拶ですからね」

神音様が、口を挟んだ。


(確かに…)


これが、私が御剣で過ごす最後の日になった。

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