《MUMEI》

なにがなんだか分からないまま走って、
私たちは裏庭に続く非常階段へと辿り着いた。


…非常階段、好きだなー…


はあはあと荒い息の椎名くん。


一方で、私は全く疲れを感じてなかった。


私、運動不足だから
いつもなら死にそうになるのに…


椎名くんは、階段を上ると、中段位のところに腰掛けた。


私もその一段下に座る。



改めて見回すと、ここには人気が全く無く、


コンクリートの階段に座ると、
手すりの壁で、外からは見えなくなる。


時折、涼しい風が吹く。



「…これ」



椎名くんが私に紙袋を差し出した。



「??…なに?」


「いーから、見てみろよ」



椎名くんがそう言うので、紙袋を開けてみる。



すると、すごく甘くていい匂いが広がった。


中には、可愛くラッピングされたいちごタルトが。



「…!!これ、どうしたの!?」



椎名くんを見ると、



「お前の母ちゃんが作ってくれた。
おれ甘いもん苦手だし―…」


「…そうなの!?」



椎名くん、甘いもの嫌いなんだ―…



「―…それに、これはおれの為じゃなくて、
お前に食べて欲しくて作られたモンだ。
…お前が食うべきだろう」



そう言って、椎名くんはにっこり笑った。



「……うん。
ありがとう!!すごく嬉しい!!」


「おう。…おれも1つ食ったけど、
あんまし上手く感想言えなかったからな…」



そう言って、申し訳無さそうに頭を掻く椎名くん。


…苦手なのに、食べてくれたんだ…



「いただきます」




ママが作ってくれた、とびきり甘いいちごタルトは、



私の胸の奥を、そっとくすぐった。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫