《MUMEI》

それまで無言だった『神様』が、神君に話しかけた。

「俺は…」


神君は、掴んでいる私の手をギュッと握り返した。


「俺は、ゆきと…愛する人とずっと一緒に生きて行きたい…です」


(それは…)


偶然にも、晶が夢で言っていた


私の父・神尉が私に願いを込めて言った言葉だった。

『ゆき』


愛する人と一緒に、幸せに『生き』て『行き』なさい




いき


『ゆき』


一生懸命悩みに悩んで、父はそう私を名付けたと


夢の中で晶は笑っていた―

「…神音様」


「何です?」


神君の気持ちを確認した『神様』は、台座を降りると、神音様の前に歩み寄り


…土下座をした。


「…どういうつもりですか?」


「当主としてではなく、神の剣の分身としてお願い致します。

どうか我が主を、ゆき様と共に御鏡にお連れ下さい。
姿が変わろうとも、側に居れなくとも

主の幸せを一番に願う気持ちは…、私は変わっておりませぬ。

どうか、どうか…

お願い致します」


『神様』はそう言って、神音様に頭を下げ続けた。


「お前…」


神君は、そう言ったきり、何も言えなかった。


(あぁ、そうか)

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