《MUMEI》

「いつもより諦めるの早いですね。」

俺が暴れてもその呼び方を止めなかったのに。

「意味が無くなったから。」

卜部先輩の手は休まらずに描き続ける。

「……意味?」

「ヤイちゃんて俺だけが呼べないと俺が呼んでいた意味が無いから。」




それって、それって

「……女の子にとって殺し文句じゃないですか……」

俺が、女の子だったら先輩に告白とか出来たのかな……とか。
なんか哀しい。

「……あ、自分右目尻にセクシィ黒子あるの、知ってた?」

スケッチブックの途中経過を見せてくれた。
特に注目させたいデッサンされた俺に付けられてある泣き黒子は先輩が指す手により阻まれた。

「おちょくらんで下さい。自分のことは知ってるつもりです!」

「俺は泣き黒子、二週間前から気が付いたよ。」

先輩のその言葉で血の気が失せた。




二週間前は、調度俺が先輩の寝ている間に唇を奪った日だ。

「――――……は、はははははははははは!」

笑って逃げる。
笑うしかないからだ。

「待ちなさい弥一!」

卜部先輩の大声と何かが頭に当たる。

「うう……」

ピンポイントで後頭部が痛む。
途中でしゃがみ込んで美術室出るまでにも到らなかった。
惨めだ。

「デッサンモデルも全うせずに帰ろうとするなよ、あと、人の話は最後まで聞きなさいな。」

卜部先輩の落とす影が怖くて仕方が無い。
先輩が俺を事故で亡くした弟みたいに可愛がってくれてたこと知っていた。
付け込んでるみたいで悪いとも思っている。

「ごめんなさい……ごめんなさい」

でも二週間前に気付いた。それ以上に卜部先輩を想っている。

「男だろ、泣くな泣くな泣くな!」

しゃがんで隠していた顔を無理矢理先輩に向けられた。

卜部先輩が真顔でこっちを見ている。

……見ている。

両頬は卜部先輩の手で挟まれて身動き取れない。

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