《MUMEI》 「ほら、出来たぞ弥一。」 卜部先輩から描けたものを見せて頂く。 相変わらず丁寧なタッチだ。 ん、絵の端に文字が…… 我が目を疑った。 そこには、 〈ヤイチ 俺と恋愛しない?〉 ……と、書かれていた。 「伝わった?」 卜部先輩は飄々と聞いてくる。 「せんぱい、これドッキリ……?」 疑わずにいられない。 「お前……ここまでしてやったのに往生際が悪いな。」 じゃあ、カメラも仕込みも無いということか? 頬を抓る。 「……正気すか?」 痛覚も曖昧。 「俺を好きって言えば確認させてやる。」 「好きです卜部先輩」 夢で何度も言った言葉は現実味を帯びない。 騙されたようにあっさりと言えた。 けど、返ってきたキスは紛れも無い本物で、 初めてこの空しい恋が血を通った気がした。 「弥一が好きだよ」 卜部先輩との距離は先輩が俺に歩み寄って埋めてくれた。 「はい……」 今ももっと気の利いた返事をすれば良かったと後悔している。 前へ |次へ |
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