《MUMEI》 魔との出会い1 僕は魔と出会った。 街中の喫茶店。 ありふれたセルフサービスの、シンプルな店だ。 僕は、そこで彼女とであった。 どこで、誰の紹介だったかは、もうよく覚えていない。 ネットのどこか、小説系のコミュニティー経由だったと思う。 待ち合わせの時間ぴったりに現れた彼女を見て、僕は彼女が魔であることを理解した。 そら色のワンピースを身につけた彼女は、とても端正で整った顔立ちをしている。長い髪にクールな美貌をもった女の子。 まだ十代の終わりくらいの年だろう。若い子の持つ独特な清潔な匂いがした。 でもその佇まいはどこか奇妙な感じがする。 たとえばピカソの絵に描かれる人物のように、個々のパーツは正しい形をしているのに組み合わせかたがずれているような。 そして、彼女は僕に語りかけた。 (あなたが蛭薙さんですね) 抑揚のない奇妙な発音だった。 まるで電子的に合成されたような。彼女は言葉を語るのに、酷く苦労をしている。 キーボードをはじめて使いはじめた子供が、一語づつ人差し指で打鍵している感じ。 僕は、彼女に頷いた。 (ネットで小説を公開していらっしゃる) 僕はもう一度彼女に、頷きかける。 彼女は僕に携帯電話を手渡す。アンテナがたっていなところをみると、解約されたものらしい。 僕はそのディスプレイを見る。そこには、ひとつのファイル名が表示されていた。 土曜日の本.txt 彼女はもう一度口をひらく。 (あなたに、このテキストを公開していただきたいのです。あなた名義でもかまいません) これは、その携帯電話に描かれた物語である。 物語であり、ひとつの思考の記録。 次へ |
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