《MUMEI》

「鬼久保君て、卜部によくちょっかい出されとるね」

掃除で部活に遅れたとき、先に部室で俺と同じクラスの美術部員女子とヤイちゃんが話していた。

「先輩、俺のこと玩具にして楽しんでるんです。」

「それだけじゃないね、卜部は嬉しいんだよ。
卜部は去年5歳下の弟を亡くしとるから、鬼久保君のこと構うのはそれもあるのよ。よう顔も似てる。」

余計なことを言う。

「卜部先輩の弟に似てるんですか……」

似てないヤイちゃんは……と叫びたかったが声が出なかった。
悔しい。

死人に似ていると聞いていい気しないだろうが。
止めてくれ、思い出させるな。

「……少し、嬉しいです。
一人っ子だったんで卜部先輩はお兄さんみたいで。

それに、俺、ジィちゃん子だったんですけどジィちゃんが死んだ時、残る記憶は悲しい葬式のことや弱ってやつれた顔ばっかで……なんだか寂しくて。
だから俺を見て元気だった弟さんの記憶、ずっと残してくれれば嬉しいです。」

ヤイちゃん……いい子だ。
俺はヤイちゃんをかなり、気に入っている。

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