《MUMEI》

「では、ゆっくりおやすみください」


「おやすみ…なさい」


私がそう言うと、使用人の女性は入口を閉めた。


(どうしよう)


別々に案内されたから、てっきり別々に寝るかと思ったのに…


寝所に隙間なく並べられた二つの布団。


枕元に座る、浴衣姿の湯上がりの


神君


神君は、無言でじっと私を見つめていた。


…私の心拍数が上がっているのは、湯上がりだからでは無い事はわかっていた。

ゆっくりと、私は神君に近付いた。


…少し、距離を置いて座る。


「俺を…『離さない』って… 言ったな?」

「あ、…うん」


(あの時は夢中だったけれど…)


考えてみれば、すごい台詞だ。


私は真っ赤になってうつ向いた。


膝に置いた私の手に、神君が自分の手を重ねた。


顔を上げると、いつの間にか神君は間合いをつめて、至近距離に来ていた。


(やっぱり、綺麗な顔)


今まで女性に苦労しなかったのも、頷ける。


私は、まじまじと神君の顔を見つめた。


「今の俺は何色だ?」


囁く神君の吐息が、私の顔にかかった。


「薔薇色…だけど…」


「だけど?」


神君は、真っ直ぐ私を見つめていた。

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