《MUMEI》

(でも…)


私は、離れようとする神君の手を掴んだ。


「ゆき?」

「たくさん、今まで我慢してたよね?

私ね?

恐いけど…」


私は掴んだ神君の手を、浴衣の布ごしに、胸にあてた。


「神君といると、ドキドキするの。

側にいないと寂しいの。

…恐いのは、また痛いんじゃないかって…

でも…

触られるのは、嫌じゃないの

美幸さんがね、こういう気持ちは『恋』だって、私に教えてくれたの。

だから…

私は、神君が


好き


だと


思っ…」


その続きを、私は口にはできなかった。


神君が、私を抱き寄せて、唇を塞いだから。


「もう一回、言ってくれ」

「?」


(どこから?)


「俺が好きだと言ってくれ」


「好…き」


神君が私の額に唇を当てた。


「愛してる?」


(多分…)


この気持ちは…


恋より、愛だと思ったから。


私は、ゆっくり、照れながら口に出した。


「愛して…る…」


神君は、私をきつく抱き締めた。


「今度は優しくするから…
いい?

…ていうか、俺、もう

我慢の、限界」


神君の言葉に、私は無言で頷いた。


「…良かった」

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