《MUMEI》
唯一の男友達。
その夜は一睡もできず、フラフラになりながら仕事をしていた。




私のバイト先は小さな雑貨屋でお客は滅多に来ない。


寝不足にはこのヒマさが一番キツいんだよな。




“カランッカランッッ”




『いらっしゃいませ。』



『よっ。ヒマ人。』



『なんだ、コウタか。』



『なんだとはなんだ。客に向かって、失礼だぞ。』



『コウタはお客じゃないじゃん。また冷やかしでしょ?』



『まぁ〜ねぇ。』


コウタとのこの掛け合いはいつものこと。



実家の運送屋を継いで、毎日トラックであちこちに走り回ってるコウタは、何故か配達後、この店に来るのを日課にしてる。




『…で、昨日はどこまで行ってたの?』




『昨日は大阪。その後、奈良行って今帰り。』




『そかっ。また大阪か。毎回大変だね。』




『これ。やるわ土産。』




『もぅ…また?何度も言ってるけど私“ご当地キティ”集めてないってば。』




『まぁまぁ。そんな事言うなって。可愛いだろ。キティちゃんがたこ焼きや鹿になってんだぞ。たまんねぇだろ?』




これもいつものこと。
コウタのお土産は決まってご当地キティ。
先週の大阪は食い倒れキティちゃんだった。




『こんなにキティちゃんばっかいらないよ。せっかく色んなとこ行くんだから、せめて美味しい名物買ってきてよ。』




『美味しい名物?おぉ。ご当地かっぱえびせんか?そーいやー、ご当地ハイチューなんてのもあったな。どっちがいい?』




『…あほ。コウタに期待した私がバカだったよ。そもそもなんでいつもキティちゃんばっかなの?私、一度も好きなんて言ってないよね?』




『だってさ…』




分かりやすくコウタのテンションが下がった。




『何、分かりやすくテンション下げてんの?キティちゃんは嬉しいよ。嬉しいけど…』



コウタは私の話を最後まで聞かず話しだした。




『だってさぁ、食いもんは、食って終わりだろ?お前の事だからツレとかにもあげそうだし。そんなんヤじゃん。なんか形に残んねぇとお前、俺のこと忘れるだろ?』




コウタはハッとした顔をして慌てて付け加えた。




『ってか。別に何でもいいじゃん。選ぶ手間も省けるし、ご当地キティなら高速のサービスエリアで買えて楽なんだよ。』



『…ねぇ。コウタ。コウタは仕事で行ってんだし、お土産なんていいよ。忙しいでしょ?そんな時間があるなら車で仮眠でも、とりなよ。』




私は、一生懸命キティちゃんを買うために走ってるコウタが目に浮かんで、そんな事しか言えなかった。




『わかってるって。ヒマだから買ってるだけだし。これからはご当地加トちゃんにしてやるからな〜。』




そう言って、コウタは足早に帰っていった。



コウタは私の元カレ(ヨウスケ)の友達だった。
昔はよく3人で遊んでたけど、私達が別れてからはコウタと会うことも無くなった。



もうコウタとも会うことはないだろうと思っていたけど一週間も経たないうちにコウタからメールが着た。


『ヨウスケとは絶交した。もう二度と会わねぇ。瑠伊。俺たちは友達のままだよな?』



それからコウタは私の唯一の男友達になった。



ヨウスケの事を引きづりまくってたけど、リコにグチって、コウタとバカ言って…それがすごく楽しくてちょっとづつ元気になれたんだ。



私、リコとコウタのおかげで今、憐に恋しかけてるんだ…。

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